2023-06-13
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登山の雨具を考える

13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための服装術

伊藤 俊明 
ライター・編集者

本好きが高じて企画・編集会社に勤務し、アウトドアをはじめとす る趣味の雑誌編集に関わったのちに独立。思う存分スキーを楽しむ ために夏に頑張るアリンコ系ライター・編集者。インタビューや道 具の紹介、解説記事が得意分野。

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目次

 レインウェアが登山の必須装備とされるのはなぜでしょう?

 「山行予定日は晴れ予報だから持たなくても大丈夫」と高をくくったり、うっかり忘れたりしないためにも、必須とされる理由を頭に入れておきましょう。

 はじめに、山がどういう場所なのか考えてみましょう。

 地形的に雲ができやすい山では、天気の急変は珍しいことではありません。急な雨に会っても、街のなかにいればすぐに建物や屋根の下に逃げ込むことができますが、山ではそうはいきません。そういう場所で雨に降られるとどうなるでしょうか。

 天気が変わりやすい山は、風が吹きやすい場所でもあります。レイヤリングの項でも説明しましたが、濡れたところに風を受けると体は一気に冷やされます。汗をかきながらようやく稜線に出たときに受ける一服の風は心地よいものですが、雨に濡れた体で風を受け続けることを想像してみてください。

 標高が高い山では、夏でも低体温症のリスクが潜んでいます。リスクを避けるには、できるだけ体を濡らさないこと。簡単に避難できる場所がない山のなかで、これがレインウェアが必須装備とされる理由です。

 アウトドアや登山で使うことを考えて作られたレインウェアは、実際にフィールドで使いやすいさまざまな特徴を備えています。ここでは登山に適したレインウェアの特徴やその選び方を解説します

ミニコラム:地形的に雲ができやすい山

レイヤリングの記事へ

ミニコラム:夏でも低体温症のリスク

基本は上下セパレートのレインウェア

 雨具にもいろいろありますが、山で使うなら、ジャケットとパンツに別れた上下セパレートのレインウェアが第一の選択肢です。雨や風を防ぐプロテクション性能が高いため使う場所を選ばず、動きやすく、持ち運びもしやすい優等生。これから装備を揃えようという人は、まずはこのタイプです。

 ベテランのなかにはポンチョや傘を使う人もいますが、これらの道具には向き不向きがあります。ポンチョの利点はレインウェアよりも蒸れにくく、小さなバックパックなら背負ったまま、体と一緒にカバーできるところにあります。広げるとタープのように使えるモデルもあり、収納時はレインウェアよりも軽量・コンパクトになるため、積極的にこれを選ぶウルトラライトハイカーもいます。難点は風に弱いこと。稜線で下から吹き上げるような風を受けるとひとたまりもありません。

 傘はポンチョよりさらに解放的で、晴れた日には日傘として使うこともできます。ただし、風に対してはポンチョよりも無力。また、片手がふさがってしまうという難点もあります。ポンチョや傘が生きるのは、木立が風を防いでくれる森林限界以下の樹林帯になるでしょう。経験豊富なベテランは、こうした道具の向き不向きも十分に理解して道具を使い分けています。

ミニコラム:ウルトラライトハイカー

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防水透湿(通気)素材で蒸れを軽減

 上下セパレートという形状にくわえて、レインウェアには、なくてはならないふたつの性能があります。「防水性」と「透湿(通気)性」です。

 この両立を可能にするのが、「防水透湿(通気)素材」です。おおまかに説明すると、水滴より小さく、水蒸気の分子より大きい微細な穴を持つ素材が、雨や風を防ぎながら、ウェア内の熱気を逃がして蒸れを軽減します。

 透湿性や通気性を持たず、熱気を逃すことができないとどうなるでしょうか。

 雨が降るのは比較的暖かい時期です(寒いと雪になります)。軽装で山を歩けるような日に雨を避けるためにレインウェアを着ると体は温まり、ウェアの中は熱気で蒸れてきます。この熱気を逃すことができないと、熱気が生地に触れて結露します。夏の日にコップに水を入れるとコップの表面に水滴が付くのと同じ原理です。

 透湿(通気)性能を持たない生地は、この結露が起こりやすくなります。たとえば、ビニールにはこの性能がありません。コンビニエンスストアで売っているビニールのレインウェアでは、雨を避けることはできても結露は避けられず、結局は体を濡らしてしまうので本末転倒です。こうしたレインウェアは登山には向いていません。

 現在、登山用品店のような専門店に置いてあるレインウェアは、すべてが防水透湿(通気)素材を使用しています。防水透湿素材の代表はアメリカのW.L.ゴア社が開発した「ゴアテックス」で、多くのメーカーが採用しています。また、通気性を備えて蒸れにくいザ・ノース・フェイスの「フューチャーライト」や、業界トップクラスの透湿値とストレッチ性を備えるミレーの「ティフォン5000」のように各社がオリジナルの素材を開発しています。

ミニコラム:防水透湿(通気)素材

登山で使いやすいレインウェアの特徴と選び方

 最後に、登山に適したレインウェアのディテールをチェックしましょう。 

 まずは軽さと収納時のサイズ。レインウェアの出番は、雨が降ったときや寒いときです。つまり、天気が崩れなければ使わない装備。「ただの荷物」になっている時間が長くなることも多いため、持ち歩くのが負担にならない軽さや収納時のコンパクトさは重要です。

 ただし、軽さだけに飛びつくのは要注意です。透けるような薄い生地を使った超軽量モデルもありますが、薄手の生地でつくるウェアは、突出した軽さの代償として保温性や耐久性を犠牲にします。ポンチョや傘のようにデメリットも理解した上で選択する上級者向けのアイテムと覚えておきましょう。

 細部の形状でもっとも大切なのはフードのデザインです。試着して、顔の動きに追従して視界を妨げないものを選びましょう。細かいところですが、頭部にフィットさせるドローコードなどが扱いにくいとストレスになります。ヘルメットを着用する場合は、ヘルメットの上から無理なく被れるサイズであることも確認しましょう。

 メインの生地はストレッチ性を備えるものも増えてきました。大きく体を動かしてもつっぱりにくく、とくにパンツは足上げがしやすくなります。パンツのひざ下は、ほとんどのモデルがファスナーで開くようになっています。雨が降り出してから着用するときも、ファスナーを開けば登山靴を脱がずに穿くことができます。また、防水透湿(通気)素材を使っているとはいえレインウェアを着て歩くと少なからず蒸れを感じますが、ポケットの内側をメッシュにしたモデルは効率的な換気が可能です。実際の使いやすさは、こうした細部のつくりによっても変わってきます。

 レインウェアの出番は雨のときだけではありません。風を防いだり、寒いときには保温着としても活用できます。登山には欠かせない装備というだけでなく、日常生活や旅行でも役に立ちます。デザインやスペックももちろん大切ですが、自分が雨のなかで使うことを考えながら、後悔しないように念入りに選びましょう。妥協せず、むしろ、ちょっと背伸びした買い物をしてもいいくらいの重要なアイテムです。

ミニコラム:軽さと収納時のサイズ

ミニコラム:フードのデザイン

ミニコラム:メインの生地はストレッチ性を備える

ミニコラム:ポケットの内側をメッシュにしたモデル

(文=伊藤俊明 写真=岡野朋之)

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