2023-05-13
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デザインやカラーよりも大切なこと

13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための服装術

伊藤 俊明 
ライター・編集者

本好きが高じて企画・編集会社に勤務し、アウトドアをはじめとす る趣味の雑誌編集に関わったのちに独立。思う存分スキーを楽しむ ために夏に頑張るアリンコ系ライター・編集者。インタビューや道 具の紹介、解説記事が得意分野。

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 登山をしたことがない人でも「山の天気は変わりやすい」という言葉は聞いたことがあるでしょう。周囲より盛り上がっている山は、実際に天気がとても変わりやすい場所です。風が吹けば斜面に沿って空気が上昇し、上昇して空気中の水蒸気が冷やされると雲がつくられます。山にいると、さっきまで晴れていたのに急に雲が湧いて雨が降り始めた、ということも珍しくありません。

 天気だけでなく、登山者の体感も変化し続けます。登山口に立ったときには肌寒さを感じても、登りはじめてしばらくすると汗が噴き出します。登りにあえいでいたとしても、休憩で立ち止まったところに風を受けると、今度は一気に体が冷やされます。

 このように、登山ではその日の天気や自分自身の行動によって、刻々と状況が変わります。状況の変化は「暑い」「寒い」という感覚をもたらしますが、体感の急激な変化は疲労に繋がります。変化によるそうした影響を、ウェアを活用することで最小限におさえようとする服装術が「レイヤリング」です。レイヤリングとは「重ね着」のこと。平地のようにすぐに逃げ込める場所がない山では、いざというときは、ウェアが身を守る最後の砦となります。自分で持ち運べる数少ないウェアでも、正しく使うことでさまざまな状況に対応できます。

 こう書くといかにも難しそうですが、先人たちの積み重ねや、ウェアメーカーの試行錯誤によって、基本的な手法は確立されています。適切なウェアを選び、着ることでストレスが少ない状態に体を保つことができます。こうして体力を温存することは、ひいては安全に繋がります。これから登山用のウェアを揃えようという人は、まずはレイヤリングの基本を押さえてください。

ミニコラム:山の天気は変わりやすい

ベースレイヤー=もっとも重要なレイヤリングの土台

 レイヤリングは、ウェアを3つの層(レイヤー)に分けて考えます。皮膚に近い方からベースレイヤー、ミドルレイヤー、アウターレイヤーと呼びます。3枚のウェアではなく、機能のちがう3層を組み合わせるということです。それぞれの役割を知ることで、数あるウェアの中から自分に合ったものを選べるようになります。

 素肌に直接身に付けるベースレイヤーには、大きくふたつの役割があります。ひとつは汗処理です。汗をかいて体が濡れると、冷えるリスクが高まります。これを軽減するために素早く汗を吸い、生地表面に拡散させて発散する「吸汗速乾性」が重要になります。もうひとつは「保温性」です。厚みのある生地で皮膚の上に空気の層をつくり、体温が失われるのを防ぎます。

 吸汗速乾性と保温性は相反する機能のようですが、寒い日でも汗をかくことはあり、両者をバランスよく備えたウェアも求められます。こうした機能を実現するために、ウェアメーカーはさまざまな工夫を凝らしていますが、素材にも向き不向きがあります。おおまかにいうと吸汗速乾性はポリエステルなどの化学繊維が得意とする機能。保温性で選ぶなら天然素材のウールです。実際にはこれらの素材をブレンドして使うこともあり、また、ウェアの機能は、素材だけでなく生地の構造やウェアのデザインなどを総合した成果なので一概にはいえませんが、ひとつの目安として覚えておくといいでしょう。

 ベースレイヤーは文字通りレイヤリングの土台となる層です。家を建てるときに基礎が大切となるように、レイヤリングでもベースレイヤーがしっかりしていないとその上に重ねるウェアがうまく機能しません。外から見えないことも多いベースレイヤーは地味に思われるかもしれませんが、縁の下の力持ち、もっとも重要なウェアです。

ミニコラム:ポリエステルなどの化学繊維

ミニコラム:天然素材のウール

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ミドルレイヤーは保温のためのウェア

 ミドルレイヤーは中間着とも呼ばれます。ベースレイヤーとアウターレイヤーの間にあって体を保温するのが主な役割です。素材や行動形態によって、大きくふたつに分けられます。

 ひとつは、気温が低くても汗をかくときのミドルレイヤー。前述のようにミドルレイヤーの主な役割は保温性ですが、寒くても汗をかくようなときには、ベースレイヤーの発散を邪魔しない通気性や速乾性も重要になります。こうした場面では、フリースのような通気性の高いウェアが向いています。プルオーバータイプは、ファスナーを開いて熱気を逃すことも可能。体幹部のみをカバーするベストタイプも有効なアイテムです。

 もうひとつは、気温が低く暖かくしたいときのミドルレイヤー。汗処理よりも保温性を重視するときには、ダウンや化繊綿を封入した薄手のインサレーションウェアが向いています。いずれもコンパクトに収納できるので、バックアップとして持ち歩くのも苦になりません。

 基本的には中間に着ているウェアですが、アウターレイヤーを脱いでミドルレイヤーのみで行動することも珍しくありません。ひとくちにミドルレイヤーといっても、ベースレイヤーに近い薄手のものからある程度ボリュームのあるものまで選択肢は無数にありますが、どんなシチュエーションで使うのか具体的に想像してみれば、適したものが見えてくるはずです。

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風雨を防ぐアウターレイヤー

 もっとも外側で外界と接するのがアウターレイヤーです。行動中に着ているものをアウターと呼ぶこともできますが、アウターレイヤーの最大の目的は雨(雪)や風を防ぐこと。基本は防水透湿素材を使用したもので、雨で濡れたり風で体温を奪われたりするのを防ぎながら、衣服内の蒸れは抑えます。

 冒頭で述べたように、山では天気の急変は珍しくありません。日中は半袖で行動する夏でも、アウターレイヤーのレインウェアは必須装備です。濡れは大敵。水は空気の25倍の早さで熱を伝えます。つまり、濡れているとそれだけ体温が奪われるということです。標高が高い山では、夏でも低体温症のリスクが潜んでいることを心に刻んでください。

登山中、できるだけ寒さや暑さを感じずに済むようにウェアを脱ぎ着して調節するのがレイヤリングです。おぼえておきたいのは、体感は人それぞれということ。自分は寒いと思っても、一緒に歩いている仲間はそうではないかもしれません。たとえば、自分より経験豊富な仲間がミドルレイヤーだけで歩いていたとしても、自分が寒いと感じたら躊躇せずにアウターレイヤーを身につけましょう。実際に山で何度が繰り返すことで、自分なりのレイヤリング術は身につきます。

 最後にウェア選びについて。山行を重ねていろいろな場面を経験すると、本当に自分に合ったウェアがわかるようになります。そうなる前や、これからウェアを揃えようという人は、まずは定番と呼ばれるものを試してみることをおすすめします。

 定番は、長年多くの人たちに使われて洗練されてきた「間違いが少ない」ものです。そうしたスタンダードを使うことで、自分のなかに一定の基準をつくることができます。登山経験を重ねるなかで、「もっと軽いものがほしい」とか「もっと丈夫なものがほしい」となったとき、定番を使って身に付けた感覚は、自分が求めるものを選び取る頼れる指針になっているはずです。

ミニコラム:防水透湿素材

ミニコラム:夏でも低体温症のリスク

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(文=伊藤俊明 写真=岡野朋之)

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