13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための道具術
本好きが高じて企画・編集会社に勤務し、アウトドアをはじめとす る趣味の雑誌編集に関わったのちに独立。思う存分スキーを楽しむ ために夏に頑張るアリンコ系ライター・編集者。インタビューや道 具の紹介、解説記事が得意分野。
記事一覧平地とは異なる山岳環境を想定してつくられた登山用品のなかには、山以外の場所でも便利に使えるものが少なくありません。とくに飲食に関わるものは、軽量・コンパクトで持ち運びしやすいがゆえに、最近は防災グッズとしても重宝されています。
たとえば、コンパクトな浄水器があれば断水したときにも心強いし、クッカーやストーブがあれば電気やガスが止まっても温かいものを摂ることができます。山で使う道具のいくつかを、ふだんは非常時の持ち出し袋に入れているという人も少なくないでしょう。
なにかと便利な登山用品のなかでも、ボトルは登山や日常生活から災害時まで、どんなときでも使える道具です。汎用性が高いそんな道具に、あえて「専用」と名付けて大定番となったのがサーモスの「山専用ボトル」です。もうひとつ、2022年に約20年ぶりに再登場してひそかに注目を集めているのが、炭酸飲料を入れられる「保冷炭酸飲料ボトル」です。
どちらも真空断熱構造ですが、ここではきびしい冬山の環境下でも飲み物を温かく保つために保温力を重視して開発された山専用ボトルと、冷たい炭酸を持ち運べて夏の暑い時期にうれしい保冷炭酸ボトルという位置付けでご紹介します。それぞれの開発ストーリーを、サーモスの藤本 彩さんに聞きました。
登山における水分補給の重要性については以前も解説しましたが、とくに寒い季節に持っていたいのが、温かい飲み物を温かいままキープできる保温ボトルです。休憩のタイミングですぐに温かいものが摂れるとほっとするし、元気が出ます。冷えた体を内側から温めることは、体温や体力の維持にも効果的です。山専用ボトルが多くの登山者に愛用されているのは、この保温力がとても優れているからです。
山専用ボトル誕生のきっかけは、サーモスが1988年に発売したチタン製のボトルでした。軽さと強さをめざして開発されたこのボトルは、容量450㎖で重量約240g(登場時)。同型同容量のステンレス製ボトルが約360gだったのに対して、その3割にあたる120gもの軽量化を実現していました。ステンレス製の2倍以上になる1万円という水筒としては高価なものでしたが、メーカーが想定していなかった場所で大いに注目を集めました。そう、1gでも軽いものを求める登山・アウトドア業界です。
「チタン製のボトルは、ほかのステンレス製のボトルより軽いので山に登る人が選んでくださいました。ただし、山には適さないところもありました」
ユーザーからは、もっと保温力が欲しいという要望が多かったそうです。ほかにも、グローブをしたままボトルを持つと滑りやすく、落としてしまうというトラブルがありました。また、冬山に登る人のなかには、はちみつやジャムのような糖分を多く入れた飲み物を持っていく人もいましたが、ワンタッチプッシュ栓では、それらが凍って詰まってしまうことがありました。
「山専用ボトルは、そうしたユーザーの声を受けて生まれました。開発にあたって、いちばんに取り組んだのはボトルの口径を小さくすることでした。水筒でもっとも熱が逃げるのが飲み口です。広すぎるのはもちろんですが、狭すぎても使いにくくなってしまいます。いくつも試しながら、ちょうどいいサイズを見つけるのに2年近くかかりました」
口径は、中に入れた飲み物の注ぎやすさだけでなく、ボトルに入れるときの入れやすさにも関わります。山専用ボトルの口径は36mmと一般的なステンレスボトルよりも狭めになりました。夏場は氷を入れることも想定していて、家庭の冷凍庫で作った氷がぎりぎり入れられるサイズです。
中栓には回して開けられるスクリュー栓を採用し、栓の中には断熱材を入れています。こうした工夫によって、保温力・保冷力ともに向上しました。たとえば保温力は、朝沸騰させたお湯をボトルに入れれば、昼にそのお湯でカップラーメンがつくれるほど。本体にはシリコンの滑り止めリング、底にはカバーが付き、これらは取り外しも可能です。
「開発段階では、容量についてもかなり議論がありました。結果的に、その日の宿泊地までの行動時間を6~8時間と見積もって800㎖に落ち着きました。小さい方の500㎖は日帰りの低山などを想定したものです。携帯マグボトルの主力ラインが500㎖だったことから、自然とこの容量に決まりました」
山専用ボトルは2007年の初代登場時は500㎖と800㎖でしたが、2019年にリニューアルを行ない、現在は500㎖、750㎖、900㎖の3種類になりました。750㎖は、500㎖ではちょっと足りないという人に。900㎖あれば、カップラーメン2杯とコーヒー2杯が作れます。カップルで使うにもちょうどいいサイズです。
サーモスが最初に炭酸飲料を入れられるボトルを発売したのは2000年のことでした。
「“マイボトル”という言葉が生まれて、自分のボトルを持ち歩く人が増え始めたころでした。ボトルの中には水やお茶を入れている人が多かったと思いますが、ほかのものを入れられるボトルをつくろうというのが開発のきっかけでした」
ふつうのステンレスボトルに炭酸飲料を入れるのはNGです。炭酸によって内圧が高まり、栓が開かなくなったり、逆に栓が吹き飛んでしまう危険があるからです。
「真空断熱イージーキャップボトル」は、ペットボトルのような小径のスクリューキャップを採用していました。キャップに縦溝を設けることで開栓と同時に高まった内部の圧力をすばやく開放し、またキャップのネジを深くすることで、圧力によって栓が外れたりしないように工夫していました。
炭酸飲料が入れられるボトルは画期的でしたが、製品の革新性に反して売れ行きは思わしくなく、2004年には販売を終了してしまいます。しかし、約20年ぶりとなる2022年に「保冷炭酸飲料ボトル」として復活しました。
「初代はちょっと発売が早すぎました(笑)。しかし、あらためて世の中で無糖の炭酸飲料が流行り始めたりして、みなさんに、よりおいしく炭酸飲料を飲んでもらいたいと思い、また、デザインをよりおしゃれに、機能的に、そして技術面でも安全に簡単に使えるようにと考えてリニューアルしました」
新しく登場した保冷炭酸飲料ボトルは、栓の構造も進化してよりスマートになりました。
「保冷炭酸飲料ボトルの栓には、弊社の真空断熱スープジャーで開発したクリックオープン構造を応用しています。栓を回すと“シュッ”という音がして、内部の圧を逃がしてくれます」
ボトルに炭酸飲料を入れると内圧が高まるのとは逆に、熱いスープを入れるスープジャーでは、中のスープが冷めると内圧が低くなり、外の気圧との差によって栓が開けにくくなります。お椀のフタが取りにくくなるのと同じ現象です。
これを解消するためにスープジャーの蓋にも内外の気圧差を等しくする構造(クリックオープン構造)が採用されました。新しい保冷炭酸ボトルも。これを応用して高まった内圧を逃す仕組みになっています。
「お客さまのなかには、これにハイボールを入れて野球観戦に行くという方もいらっしゃいます。球場で冷えたハイボールを飲むのが最高だとおっしゃっていました(笑)」
山で……、と同じようなことを考えた方も多いでしょう。筆者もそのひとりです。
「過去最高」を毎年更新するような、異常な夏の暑さが続いています。冬場に温かい飲み物が欠かせないように、これからは、夏は冷たい飲み物を持ち歩くのが当たり前になるかもしれません。いずれにしても、山頂で飲む冷たい炭酸は、疲れを癒して気持ちをリフレッシュしてくれるにちがいありません。
〈THERMOS / サーモス〉
ステンレスボトル/FFX-501/751/1001
■900㎖
ステンレスボトル/FFX-901
実容量(ℓ):0.9
保温効力(6時間): 80℃以上
保冷効力(6時間):9℃以下
本体寸法/幅×奥行×高さ(cm): 8×8×30
本体重量(kg):0.39/0.36(ボディリング・ソコカバーなし)
■750㎖
ステンレスボトル/FFX-751
実容量(ℓ):0.75
保温効力(6時間):78℃以上
保冷効力(6時間):10℃以下
本体寸法/幅×奥行×高さ(cm): 8×8×26
本体重量(kg):0.36/0.33(ボディリング・ソコカバーなし)
■500㎖
ステンレスボトル/FFX-501
実容量(ℓ):0.5
保温効力(6時間):77℃以上
保冷効力(6時間):10℃以下
本体寸法/幅×奥行×高さ(cm):7×7×23.5
本体重量(kg):0.28/0.26(ボディリング・ソコカバーなし)
保冷炭酸飲料ボトル /FJK-500/750
■0.5ℓ
保冷炭酸飲料ボトル/FJK-500
実容量(ℓ):0.53(炭酸飲料を入れる場合は、0.5ℓを目安にいれてください)
保冷効力(6時間):10℃以下
本体寸法/幅×奥行×高さ(cm): 6.5×6.5×24
本体重量(kg):0.2
■0.75ℓ
保冷炭酸飲料ボトル/FJK-750
実容量(ℓ):0.77(炭酸飲料を入れる場合は、0.75ℓを目安にいれてください)
保冷効力(6時間):10℃以下
本体寸法/幅×奥行×高さ(cm):7.5×7.5×28
本体重量(kg):0.3
(文=伊藤俊明 写真=岡野朋之)
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