2024-12-13
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雪山の万能アイテム

13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための道具術

伊藤 俊明 
ライター・編集者

本好きが高じて企画・編集会社に勤務し、アウトドアをはじめとす る趣味の雑誌編集に関わったのちに独立。思う存分スキーを楽しむ ために夏に頑張るアリンコ系ライター・編集者。インタビューや道 具の紹介、解説記事が得意分野。

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 G3はカナダ・ブリティッシュコロンビア州に拠点を置くスキーブランドです。ブランド名の3つのGとはGenuine Guide Gear。直訳すると「本物のガイドの道具」で、バックカントリースキーにフォーカスしたものづくりで知られています。

 おもなラインナップは、軽量なスキーや、ウォークモードを備えるスキービンディング、クライミングスキンのようなスキー周りの道具ですが、「ガイドの道具」を社名にするだけあり、ショベルやプローブなどのスノーセーフティも充実しています。なかでもショベルは扱いやすさに定評があり、ココヘリ登山学校で学長を務める国際山岳ガイドの近藤謙司さんも愛用しています。

近藤謙司さん。IFMGA認定・国際山岳ガイド。ハイキングから標高8,000mの高所登山まで、あらゆる登山スタイルのツアーを行なう旅行会社、アドベンチャーガイズ代表。エベレストの公募登山隊を組織し、これまで数々の登山者を世界最高峰の頂きへと導く。エベレスト登頂は8回。チョモランマ(エベレスト)冬季北壁最高地点(8,450m)到達は、いまなお世界記録。現在、日本山岳ガイド協会理事のほか、山の日アンバサダー、ココヘリ 安全登山学校学長も務める。

 「 G3のアブィショベルは、雪をすくうブレードがフラットで雪に食い込みやすくなっています。最近は軽量化のためにブレードを薄くして、凹凸を持たせて強度を確保したモデルが増えていますが、ブレードが平らで抵抗なく雪に刺さるので、作業しやすいのが特長です。

 ショベルのなかにはコストや軽量性を重視したプラスチックブレードのモデルもありますが、あれには短所もあります。プラスチックは弱いので強度を出すためにブレードを厚くしなければいけませんが、ぶ厚いブレードは雪に刺さってくれません。雪山ではアルミブレード一択です」

「ブレードがフラットだと、スノーブロックも簡単につくれます。雪面の3辺にコの字型にブレードを差し込んで、すくい上げる。この一連の作業がとてもスムーズにできます。四角くきれいなブロックができるので、風除けのためにテントの周りにスノーブロックを積み上げるのも簡単です。

 平らなブレードは、積雪安定性を観察するピットチェックをするときにも役に立ちます。ピットチェックは、雪を掘って積雪断面を露出させ、地層のように重なったその日までの積雪の様子を観察する作業です。凹凸がないフラットなブレードだと、きれいな断面ができるので、精度の高い観察が可能になります」

ピット(pit)は英語で「竪穴」の意。これから活動する斜面を掘って積雪の履歴を観察し、安全性を評価する。くずれやすい層は雪崩を引き起こす原因になりうるが、安全か、危険かの判断を下すのは簡単ではなく、一定の経験が必要となる。

「ハンドルはT型とD型の2種類がありますが、おすすめはバックパックに収納しやすいコンパクトなT型です。G3のTグリップは左右非対称で握りやすくなっているのもポイントです」

D型はシャフトが長く大きくなるため収納性は悪くなるが、G3のD型ハンドルはグリップ部に切り欠きを設けてあり、バックパックのピッケルループを利用してシャフト部分の外付けが可能。T型は握りやすい非対称型。シャフトやブレードは単体でも購入できるので、買い足して使い分けることもできる。

「あえて言えば、このグリップに紐を通す穴が空いていないのは難点です。ショベルのいちばん重要な仕事は、雪崩事故があったときに埋没者を掘り出すことですが、ビーコンとプローブを使って埋没位置を特定するまで、ショベルは出番がありません。

 捜索のために斜面を移動するときはポールやピッケルを手に持つこともあるので、ショベルは背中にたすき掛けするのが最善です。そのためにショベルには紐をつけておくことをお勧めします。G3のグリップには穴がないので、僕はここに十字に紐をかけて、それをきっかけに背負えるようにしています」

ショベルは個人装備。たとえソロでも持つべき

 雪山ならではのリスクに雪崩事故があります。雪崩のリスクが高い場所(=雪が積もった斜面)がフィールドとなるバックカントリースキーヤーやスノーボーダーにとって、ビーコン、プローブ、ショベルは必携装備になっていますが、登山者の間では、まだそこまでは浸透していません。

 携行するかどうかは最終的には各個人の判断に委ねられますが、雪山から救助要請が入ることもあるココヘリの事務局では、「せめてショベルだけは持ってほしい」と考えています。ソロで雪山を登っていて遭難したときも、ショベルがあれば雪洞がつくれるかもしれません。地面を掘ってそこに入るだけでも寒さは和らぎます。

ビーコン、プローブ、ショベルはソロでも携行したい。何かがあって救助を要請した場合、ショベルはきっと役に立つ。

 ビーコンやショベルに対する意識については、近藤さんも、登山者に知っておいてほしいことがあると話しています。

 「これは、過去にココヘリの登山教室でも何度も話していることですが、ココヘリの会員はソロで山に行く人も多いので、あらためて伝えておきたいと思います。

 ソロ登山者のなかには、“ココヘリを持っているし、ひとりなのでビーコンは持たないで(山に)入っています”という人がいます。雪崩に巻き込まれても助けてくれる人がいないから、持っていても意味がないと考えるのかもしれません。

 でも、もしも何も持たずに山に行って、雪崩事故の現場に遭遇したらどうなるでしょう。自分の無力さを感じることになるのではないでしょうか」

万一雪崩が発生して人が巻き込まれる場面に居合わせたら最後まで見届ける。巻き込まれた人の姿が見えなくなった場所が捜索開始地点になる。たとえそれが見ず知らずのパーティだとしても、できるだけのことはしたい。すぐに救助が望めない山中で、そこに居合わせた人のサポートがどれほど助けになるかは説明するまでもないだろう。

「ひとりで歩いていても、雪崩事故の現場に遭遇する可能性はあります。そういうときにビーコンがあれば救助の手助けができるかもしれない。

 埋没した人を掘り出すのは大変な作業です。そこでショベルを持っている人がもうひとりいれば、どれほど力になれるか。

 雪山はとくに夏山に比べてぐっと人が少なくなるので、偶然そこに居合わせた人のマンパワーはとても貴重です。ですから、“あのとき持っていればよかった”なんて、あとで思い悩まずに済むように、ぜひとも携行してほしいと思っています。

 そうした緊急事態でなくとも、ショベルは持っていると役に立つ道具です。

 たとえば、いまどのくらい積雪があるのか、ちょっと掘ってみるのも興味深い経験です。雪は降ったときや降雪後の天気によって表情を変えて、地層のように積み重なります。層のなかには硬くしまったものもあれば脆く崩れやすいものもあり、雪はただ白くて冷たいだけのものではないことがわかります。ちなみに、崩れやすい層は「弱層」と呼ぶ雪崩の原因になりうる層です。

 積雪の観察以外にも、スノーハイキングの途中で雪を掘って椅子とテーブルをつくれば、ランチタイムも優雅になります。ハイキングにせよ登山にせよ、雪上でキャンプするときも必需品です。テントサイトを整備できれば、キャンプは快適になります。

 ショベルは、以前はグループにひとつの共同装備でしたが、これからはひとりにひとつの個人装備と考えるべきでしょう。ビーコンと合わせて、雪山を登る人にはぜひとも用意してほしい道具です」

「ビーコン、プローブ、ショベルは必携装備」

G3のショベルの特徴

 G3のショベルはブレードが2種類、ハンドルが2種類あります。それぞれの特徴を、G3製品を取り扱うキャラバンの岡 修司さんに聞きました。

岡 修司さん。株式会社キャラバン営業部主任。キャラバンシューズで知られる同社で、カンプやG3などの世界の一流ブランドの登山用品を取り扱う。冬はスキー派で、今季も11月末の立山で初滑りをしてきた。すでに雪山シーズンが始まっている。

「アブィショベルは雪が柔らかいハイシーズンに適しています。近藤さんも指摘してくださったように、ブレードがフラットなのでピットチェックがやりやすくなっています。

 ハンドルはコンパクトさで選ぶならT型ですが、作業性を優先するならD型が優れています。グリップしやすいので力が入れやすく、防寒性の高い分厚いミトンをしていても握りやすいです。G3のD型ハンドルには切り欠きがあり、バックパックのピッケルループに取り付けられるようになっています。T型のようにバックパックの中に入れるのは難しいですが、携行性も考慮されています」

「もうひとつのスペードショベルは残雪期用です。ブレードの先端が尖っているので、固く締まった雪にも刺さりやすくなっています。密度が高い締まった雪や水分を多く含んだ雪は重くなるため、ブレードは小さめになっています」。

 使い方や使用する時期に合わせて選べるG3のショベル。まだ持っていないという人や、今シーズン雪山デビューを計画しているという人は、選択肢のひとつに加えてほしい。

G3/スノーショベル

アブィショベル(Dグリップ)

スノーピットやスノーブロックを作る作業に適したフラットなブレードを備えるスノーショベル。D型のハンドルはグリップしやすく、作業効率に優れる。シャフトには伸長式で握りやすいラバーグリップが付いている。

サイズ:全長66~86cm/ブレードサイズ24.0×26.5cm

重量:770g

スペードショベル(Tグリップ)

先端が尖ったスペード型のブレードは、残雪期の硬く締まった雪にも刺さりやすい。非対称のT型グリップは、人差し指と中指の間にシャフトを挟んだときにグリップしやすいデザイン。

サイズ:全長57~79cm/ブレードサイズ20.5×25.0cm

重量:630g

(文=伊藤俊明 写真=岡野朋之、近藤謙司)

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