13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための道具術
本好きが高じて企画・編集会社に勤務し、アウトドアをはじめとす る趣味の雑誌編集に関わったのちに独立。思う存分スキーを楽しむ ために夏に頑張るアリンコ系ライター・編集者。インタビューや道 具の紹介、解説記事が得意分野。
記事一覧G3はカナダ・ブリティッシュコロンビア州に拠点を置くスキーブランドです。ブランド名の3つのGとはGenuine Guide Gear。直訳すると「本物のガイドの道具」で、バックカントリースキーにフォーカスしたものづくりで知られています。
おもなラインナップは、軽量なスキーや、ウォークモードを備えるスキービンディング、クライミングスキンのようなスキー周りの道具ですが、「ガイドの道具」を社名にするだけあり、ショベルやプローブなどのスノーセーフティも充実しています。なかでもショベルは扱いやすさに定評があり、ココヘリ登山学校で学長を務める国際山岳ガイドの近藤謙司さんも愛用しています。
「 G3のアブィショベルは、雪をすくうブレードがフラットで雪に食い込みやすくなっています。最近は軽量化のためにブレードを薄くして、凹凸を持たせて強度を確保したモデルが増えていますが、ブレードが平らで抵抗なく雪に刺さるので、作業しやすいのが特長です。
ショベルのなかにはコストや軽量性を重視したプラスチックブレードのモデルもありますが、あれには短所もあります。プラスチックは弱いので強度を出すためにブレードを厚くしなければいけませんが、ぶ厚いブレードは雪に刺さってくれません。雪山ではアルミブレード一択です」
「ブレードがフラットだと、スノーブロックも簡単につくれます。雪面の3辺にコの字型にブレードを差し込んで、すくい上げる。この一連の作業がとてもスムーズにできます。四角くきれいなブロックができるので、風除けのためにテントの周りにスノーブロックを積み上げるのも簡単です。
平らなブレードは、積雪安定性を観察するピットチェックをするときにも役に立ちます。ピットチェックは、雪を掘って積雪断面を露出させ、地層のように重なったその日までの積雪の様子を観察する作業です。凹凸がないフラットなブレードだと、きれいな断面ができるので、精度の高い観察が可能になります」
「ハンドルはT型とD型の2種類がありますが、おすすめはバックパックに収納しやすいコンパクトなT型です。G3のTグリップは左右非対称で握りやすくなっているのもポイントです」
「あえて言えば、このグリップに紐を通す穴が空いていないのは難点です。ショベルのいちばん重要な仕事は、雪崩事故があったときに埋没者を掘り出すことですが、ビーコンとプローブを使って埋没位置を特定するまで、ショベルは出番がありません。
捜索のために斜面を移動するときはポールやピッケルを手に持つこともあるので、ショベルは背中にたすき掛けするのが最善です。そのためにショベルには紐をつけておくことをお勧めします。G3のグリップには穴がないので、僕はここに十字に紐をかけて、それをきっかけに背負えるようにしています」
雪山ならではのリスクに雪崩事故があります。雪崩のリスクが高い場所(=雪が積もった斜面)がフィールドとなるバックカントリースキーヤーやスノーボーダーにとって、ビーコン、プローブ、ショベルは必携装備になっていますが、登山者の間では、まだそこまでは浸透していません。
携行するかどうかは最終的には各個人の判断に委ねられますが、雪山から救助要請が入ることもあるココヘリの事務局では、「せめてショベルだけは持ってほしい」と考えています。ソロで雪山を登っていて遭難したときも、ショベルがあれば雪洞がつくれるかもしれません。地面を掘ってそこに入るだけでも寒さは和らぎます。
ビーコンやショベルに対する意識については、近藤さんも、登山者に知っておいてほしいことがあると話しています。
「これは、過去にココヘリの登山教室でも何度も話していることですが、ココヘリの会員はソロで山に行く人も多いので、あらためて伝えておきたいと思います。
ソロ登山者のなかには、“ココヘリを持っているし、ひとりなのでビーコンは持たないで(山に)入っています”という人がいます。雪崩に巻き込まれても助けてくれる人がいないから、持っていても意味がないと考えるのかもしれません。
でも、もしも何も持たずに山に行って、雪崩事故の現場に遭遇したらどうなるでしょう。自分の無力さを感じることになるのではないでしょうか」
「ひとりで歩いていても、雪崩事故の現場に遭遇する可能性はあります。そういうときにビーコンがあれば救助の手助けができるかもしれない。
埋没した人を掘り出すのは大変な作業です。そこでショベルを持っている人がもうひとりいれば、どれほど力になれるか。
雪山はとくに夏山に比べてぐっと人が少なくなるので、偶然そこに居合わせた人のマンパワーはとても貴重です。ですから、“あのとき持っていればよかった”なんて、あとで思い悩まずに済むように、ぜひとも携行してほしいと思っています。
そうした緊急事態でなくとも、ショベルは持っていると役に立つ道具です。
たとえば、いまどのくらい積雪があるのか、ちょっと掘ってみるのも興味深い経験です。雪は降ったときや降雪後の天気によって表情を変えて、地層のように積み重なります。層のなかには硬くしまったものもあれば脆く崩れやすいものもあり、雪はただ白くて冷たいだけのものではないことがわかります。ちなみに、崩れやすい層は「弱層」と呼ぶ雪崩の原因になりうる層です。
積雪の観察以外にも、スノーハイキングの途中で雪を掘って椅子とテーブルをつくれば、ランチタイムも優雅になります。ハイキングにせよ登山にせよ、雪上でキャンプするときも必需品です。テントサイトを整備できれば、キャンプは快適になります。
ショベルは、以前はグループにひとつの共同装備でしたが、これからはひとりにひとつの個人装備と考えるべきでしょう。ビーコンと合わせて、雪山を登る人にはぜひとも用意してほしい道具です」
G3のショベルはブレードが2種類、ハンドルが2種類あります。それぞれの特徴を、G3製品を取り扱うキャラバンの岡 修司さんに聞きました。
「アブィショベルは雪が柔らかいハイシーズンに適しています。近藤さんも指摘してくださったように、ブレードがフラットなのでピットチェックがやりやすくなっています。
ハンドルはコンパクトさで選ぶならT型ですが、作業性を優先するならD型が優れています。グリップしやすいので力が入れやすく、防寒性の高い分厚いミトンをしていても握りやすいです。G3のD型ハンドルには切り欠きがあり、バックパックのピッケルループに取り付けられるようになっています。T型のようにバックパックの中に入れるのは難しいですが、携行性も考慮されています」
「もうひとつのスペードショベルは残雪期用です。ブレードの先端が尖っているので、固く締まった雪にも刺さりやすくなっています。密度が高い締まった雪や水分を多く含んだ雪は重くなるため、ブレードは小さめになっています」。
使い方や使用する時期に合わせて選べるG3のショベル。まだ持っていないという人や、今シーズン雪山デビューを計画しているという人は、選択肢のひとつに加えてほしい。
アブィショベル(Dグリップ)
スノーピットやスノーブロックを作る作業に適したフラットなブレードを備えるスノーショベル。D型のハンドルはグリップしやすく、作業効率に優れる。シャフトには伸長式で握りやすいラバーグリップが付いている。
サイズ:全長66~86cm/ブレードサイズ24.0×26.5cm
重量:770g
スペードショベル(Tグリップ)
先端が尖ったスペード型のブレードは、残雪期の硬く締まった雪にも刺さりやすい。非対称のT型グリップは、人差し指と中指の間にシャフトを挟んだときにグリップしやすいデザイン。
サイズ:全長57~79cm/ブレードサイズ20.5×25.0cm
重量:630g
(文=伊藤俊明 写真=岡野朋之、近藤謙司)
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