山陰を代表する霊峰「大山(だいせん)」は、古くから神様の山として地元の人々に愛され大切にされてきました。大山では、毎年20~30件ほどの遭難事案が発生していて、その多くは道迷いや疲労・病気によるものです。
今回は「大山山岳医療部会パトロール隊」の代表、隊長である山岳医/長谷川賢也先生にお話を伺いました。
僕は米子で生まれ、幼い頃にはスキー、大人になってからはスノーボードをしていました。医者になってからも、スポーツドクターとしてスキー場でのパトロールや大会の医事運営等の活動は行っていました。
登山フィールドにおいては山岳医、山岳看護師制度というものがあります。登山医学会でこの制度を知ったことをきっかけに、山岳医の活動をしたいと考え資格を取りました。
山岳医療パトロールとは「山岳現場に医療を届けるということと、声掛けなどを通して遭難に繋がる事例を減らそう」という活動です。大山には必要な活動だと感じ、「よし、やってみよう」と思い行動開始しました。
最初は四人のメンバーで「大山山岳医療部会」活動のひとつとして宣言をし、公認・報酬はいらないので私が勝手にやってみますという形でスタート。正直見切り発車だったのですが、SNSで発信も行い一般登山客には大歓迎されました。
安全登山に関するSNS発信も反響を呼び、仲間も増えてきました。
「大山遭難防止協会」に加入を申請し、2022年6月25日付けで正式に加入を認められました。準公的な活動となるため、警察消防との連携を目的に大山警察救助隊の方と相談して、山岳医である私がいるときには救助要請があった場合に医療上の助言をしたり、一緒に事例にあたったりという試みも始めることになりました。
「あなたは今こういう状況でこのような装備が足らない。このままだと遭難扱いになります。もっと水を飲んで。」とか「今回は六合目ぐらいで降りてくださいね。」など、実際は怪我の治療などよりは声かけの方が多いです。
山岳遭難というと滑落等を想像するかもしれませんが、実際は疲労等で“自力で動けなくなった”時点で遭難。きちんと事前に備えておくことで、まずは自力で降りてもらえるようにする。そして万が一の際には救助隊に引き継ぐのが山岳医療パトロールの活動です。
山好きな人はみんな毎週登山に行っているし、これが僕の登山スタイルだから。他の山域に行くのもこの活動がらみですね。先日北岳にも行ってきましたし、乗鞍にも行きます。アルプスに行ってもやることは同じ。もちろん景色には感動しますよ。でも、景色そのものにはあまり興味ないかも(笑)。
人を助けながら登山する。これが僕の「登山スタイル」なのです。
実は僕は叔父が山(五竜岳)で亡くなっているんです。僕の母親のお兄さん、昭和30年の最初頃ですが、ゴールデンウィークに登って遭難して亡くなっています。だから両親や周りの人に、スキーはいいけど登山は絶対ダメだと言われていました。
母親には「ついにあんたも山に行き出したか」って言われましたね。それでも最初の10年ぐらいは夢中でいろんなところ登りました。一通り登ったときに山岳医という活動があるという話を知って、「これだ!」と思いました。
大山を訪れる登山客が繰り返し訪れてくれること。結果として地元が潤い、地元の関係者に信頼してもらうこと。今コロナで大変だけど、私たちの活動は地元の方々がいてくださってこそですから。
Tシャツ短パン、スニーカーで登ってくる人がいてもいい。60年前は登れたんだよ、っていう80歳の方が来てもいいんです。それにどういうリスクがあるかを教えるのが僕らの仕事。
その装備なり、年齢なりの楽しみ方をすればいいだけです。この山域での遊び方に不正解はない。全部正解。もちろん自然公園法は守ってほしいですが、色々な遊び方があって裾野が広いからこそ国立公園の意味があるわけでしょう。
たくさんの人に、救助隊のお世話にならないように僕らが対応いたしますから気軽に頼ってくださいね、ということを伝えていきたい。大山は素晴らしい山だし、この地域全部が好きなので。
バックカントリーをすることもあり雑誌で知り、これはいいサービスだと思い入会しました。大山のとやま旅館に国際山岳ガイドの近藤謙司さんが来られた際にお話させて頂き、ココヘリ安全登山教室の講師としてバックアップされていると聞き、素晴らしい活動をされていると感じました。
待っている人のために持つという考えにはすごく共感します。今回我々の活動に用品(ココヘリロゴ入りのザックとベスト)を援助頂き感謝しております。
北岳、乗鞍の仲間の分についてもお礼申し上げます。ロゴが入ることで、メンバーのモチベーションにもつながります。我々は歩く広告塔として山を歩きますし、救助事例などもフィードバックします。今後とも継続してご支援お願いしたいです。
登山、アウトドアの安全に資する会社として発展されることを期待しています。