2024-07-13
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熱中症予防の必携アイテム

13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための道具術

伊藤 俊明 
ライター・編集者

本好きが高じて企画・編集会社に勤務し、アウトドアをはじめとす る趣味の雑誌編集に関わったのちに独立。思う存分スキーを楽しむ ために夏に頑張るアリンコ系ライター・編集者。インタビューや道 具の紹介、解説記事が得意分野。

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 登山は、老若男女を問わず多くの人に親しまれています。ただし、愛好者が多い=楽で簡単、ではないことは、このサイトを見ているみなさんならご存知のとおり。登り下りがある山道を荷物を背負って長時間歩き続ける登山は、体に大きな負荷をかける運動です。安全・快適な登山の原則は、自身の体力やレベルに見合った山を選ぶことですが、同じように大切なのが栄養と水分の補給です。やさしい山でも十分な補給ができなければ疲れは増し、事故につながる可能性も高くなります。逆にハードルが高い山でも適切な補給を行なうことで疲労は軽減でき、体力を温存することで余裕も生まれます。ここでは水分補給のノウハウとその装備について考えます。

水分補給の原則は、失った分を補うこと

 今年も夏山のシーズンが始まりました。気象庁が発表した3ヶ月予報によると、7月、8月、9月は暖かい空気に覆われやすく、全国的に平年よりも気温が高くなりそうです。一方で降水量は平年並みと見込まれていますが、各地で梅雨入りは遅れ、沖縄や奄美は平年よりも早く明けました。日本気象協会は、その他の地域の梅雨明けは平年並になると予想しています。昨冬は暖冬となりましたが、もしも少雪のあとの少雨となれば、気になるのは山の水事情です。去年の夏は、北アルプスの山小屋の水不足もニュースになりました。今年は大丈夫でしょうか。

 毎年のように異常気象といわれ、むしろこちらが平常ではないかと思えてくるほどに「暑すぎる夏」が続いています。熱中症の注意喚起も毎日のように続くとつい油断してしまいますが、登山道には救急車は来てくれません。山に行くときは、いつも以上に気を引き締めましょう。

 熱中症予防に有効なのが、こまめな水分補給です。人の身体の多くの部分は水分でできていて、汗をかいてこの水分が損なわれると体は不調をきたします。日常生活と同じように、山でも適切な水分補給を心がけてください。

 そんなことはわかっているよ、という声が聞こえてきそうです。知りたいのは、どのくらい水を飲めば(持てば)いいのか、でしょう。すぐに水道が見つかる街中とちがい、山では必要な水は持ち歩かなければなりません。水が足りなくなるのは困りものですが、多すぎる水は重荷となって登山者を苦しめます。経験が少ない初心者にとってはとくに悩ましい問題ですが、先達が見出したひとつの公式があります。

 水分補給の原則は、汗をかいて失った分を補うことです。運動生理学とトレーニング学を専門とする鹿屋体育大学の山本正嘉名誉教授は、登山における行動中の脱水量を求める推定式を考案しました。

行動中の脱水量(mℓ)=体重(kg)×行動時間(h)×5

(「登山の運動生理学とトレーニング学」山本正嘉著・東京新聞出版局より)

「5」は脱水係数といわれるもので、「整備された登山道」を「体重の10%以下の軽装備を背負い」、「標準的なコースタイムで歩く」、「1時間に1回、5~10分の小休止を取り」、「春や秋のように登りで少し汗をかく」場合を想定して割り出された数字です。

 たとえば、体重60kgの人は6時間の登山をした場合は、60(kg)×6(h)×5=1800(mℓ)となりますが、夏の暑い時期や重たい荷物を背負う体力的に厳しいコースでは脱水係数は6~8などの大きな数字になり、より多くの水が必要になります。実際にどの程度脱水するかは体力や発汗量などの個人差によっても変わってきますが、ひとつの目安として取り入れ、実際の経験を加味することで自分にとっての適量がわかってくるはずです。

適宜補給できるハイドレーションがおすすめ

 必要な水の量がわかったら、次は持ち運ぶ方法です。容れ物は、水分補給の方法にも関わってきます。もっともポピュラーなのは、日常で手にすることも多いペットボトルでしょう。コンビニエンスストアで購入できるので、出発前に「足りないかも」と不安になってもすぐに買い足せます。山に向かう途中で思い立っても簡単に入手できるのが最大のメリットです。

 愛用者が多いのはソフトボトルでしょうか。水にイヤな臭いが付くこともなく、軽量で空になったら小さく折りたためるので荷物もコンパクトになります。最近は浄水フィルターが付いたモデルも登場して、これなら水場で補給するときも安心して使えます

スイスの浄水器専門メーカーがつくる、ソフトボトルの蓋にフィルター機能を持たせた携帯用浄水器。ボトルに水を入れ、強く握ると圧力によって水がフィルターを通過して異物が除去されるシンプルな仕組み。0.1ミクロンの無数の微細孔をもつホロファイバーフィルターは、水に含まれる微生物を99.9%、バクテリアを99.9999%除去する性能を持ち、およそ1000ℓの水を浄水できる。

カタダイン/ホロファイバー浄水器 ビーフリー 1.0ℓ

素材:フィルター=0.1ミクロン EZ-Clean Membrane

容量:1.0ℓ

重量:75g

サイズ:14×6.5×26.5cm

ミニコラム:水場で補給するときも安心して使えます

 ココヘリ安全登山学校の学長でもある国際山岳ガイドの近藤謙司さんが推奨するのは、ハイドレーションです。近藤さんは、ヒマラヤでも南極でもハイドレーションを使っています。

 リザーバーに水を入れ、そこから伸びるホースで水を飲むハイドレーションの利点は行動中も簡単に水分補給できること。バックパックを下ろさずにこまめに水分が取れます。ポイントは大きめのリザーバーを選ぶことです。1ℓの水を運ぶときに、容量1ℓのリザーバーでは満タンにせねばならず、パッキングもしにくくなります。大きめのリザーバーを選べば余裕ができるし、キャンプ地で調理用の水を運ぶような場面でも重宝します。

イスラエル生まれのハイドレーションシステム。リザーバーの内側にはガラスのように非常にスムーズな表面を持つ「Glass-Like」PEフィルムを使用。汚れの付着を抑え、水にイヤな臭いを付けない。本体は丈夫で水を入れて凍らせることも可能(その場合は水の量は半分程度に)。オレンジ色のスライドクロージャーを外すと大きく開口し、洗浄や乾燥も簡単にできる。リザーバーは、ほかに3.0ℓと1.5ℓサイズもある。

ソース/ワイドバック2.0ℓ

素材:本体=ポリエチレン・チューブ=ポリウレタン

容量:2.0ℓ

重量:170g

サイズ:19.5cm×35.5cm

ミニコラム:ヒマラヤでも南極でもハイドレーション

 ナルゲンボトルのようなプラスチックボトルは、幅広い場面で気軽に使えます。軽量かつ丈夫で洗うのも簡単。水だけでなく行動食などを入れるのにも便利です。耐熱耐冷は100℃~-20℃で、沸騰したお湯も入れられるので冬場は湯たんぽがわりにするのも定番の使い方です。

愛用者も多いプラスチックボトルの定番。ナルゲンは1949年に研究用装備品のメーカーとしてスタートした会社で、スタッフが自社製品をハイキングやキャンプに持参したことからアウトドア向け製品の開発が始まった。高い気密性を誇る独自のキャップシステムはパッキンが無いため洗いやすく衛生的。0.5ℓサイズもある。

ナルゲン/ナルゲン広口1.0ℓトライタン レニュー

容量:約1.1ℓ

素材:本体=飽和ポリエステル樹脂・キャップ=ポリプロピレン・ループ部=ポリエチレン

重量:180g

ミニコラム:幅広い場面で気軽に使えます

 寒い季節にはサーモスのような保温ボトルが活躍します。温かい飲み物は体を内側から温めてくれるので体温の維持にも効果的。性能も高く、朝沸かした湯で昼にカップラーメンが作れるので、ストーブがなくても温かいものが食べられます。

山での使用を想定して開発した保温ボトルの定番。保温力を優先して口径を36mmに設定。900mℓの保温効力は6時間で80℃。朝沸かしたてのお湯を入れて家を出れば、昼にそのお湯でカップラーメンがつくれる。グローブの手でも掴みやすいボディリングや衝撃を緩和するソコカバーは取り外し可能。ほかに750mℓと500mℓがある。

サーモス/山専用ボトル 900㎖

素材:ステンレス

容量:0.9ℓ

重量:390g/360g(ボディリング・ソコカバーなし)

保温保冷時間:6時間

サイズ:8×8×30cm

「山頂で冷たいコーラ」の夢が叶う、炭酸飲料を冷たいまま持ち運べる真空断熱構造ボトル。栓には圧力開放穴があり、ボトルの内圧が上がったときにその圧力を逃がしてくれる。塩分を含むスポーツドリンクも入れられる。保冷効力は6時間で10℃以下。ほかに750mℓもある。

サーモス/保冷炭酸飲料ボトル0.5ℓ

容量:0.53ℓ  ※炭酸飲料は0.5ℓを目安にしてください。

重量:0.2kg

保冷時間:6時間10℃以下

サイズ:6.5×6.5×24cm

 このように、ひとくちに水筒といってもさまざまな種類があります。使い方も工夫次第で、たとえばハイドレーションに水を入れて、ナルゲンボトルにスポーツドリンクを入れるなど、複数を同時に使い分けている人もいます。自分の登山スタイルに合った製品を見つけて、安全・快適な山登りに役立ててください。

(文=伊藤俊明 写真=岡野朋之)

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