ココヘリ安全登山学校「安全対策クラスⅡ&技術Ⅰ」を山梨県小楢山(こならやま/1713m)で行いました。
山岳•アウトドア関連の出版社勤務を経て、フリーランスの編集者に。著書に『テントで山に登ってみよう』『ヤマケイ入門&ガイド テント山行』(ともに山と溪谷社)がある。
記事一覧 背景の山並みは、大菩薩嶺から続く甲州アルプス。今回の参加メンバーは受講者11名にメインガイドの天野和明さん、サポートガイドの石島竜平さんほか、スタッフ2名の総勢15人となった。ここ小楢山は、山梨出身の天野さんにとっての地元の山。本人曰く、県内でお勧めするなら3本の指に入る一座で、広い山頂から眺める甲府盆地越しの富士山は一見の価値があります。開催は11月12日。標高が1700mを超すだけにすでに晩秋の趣きではありましたが、さわやかな秋晴れに恵まれ、気持ちのいい一日となりました。
天野和明(あまの・かずあき) さんは明治大学卒、在籍中は山岳部に所属。OBとしての活動も継続中。ヒマラヤ8,000m峰6座の登頂をはじめとして、2008年には、インド・カランカ(6,932m)北壁をアルパインスタイルで挑戦するなど数々の登攀歴を持つ。カランカでの初登攀が評価され、フランスの山岳賞・ピオレドールを日本人として初受賞している。ココヘリ安全登山学校の甲信越校のほか、石井スポーツ登山学校でも校長も務める。
登山学校の参加者たちからも「ツェルトは持っているけれど、使ったことがない」「いざというときに、どうすればいいのかがわからない」などの意見も多く、ツェルトは一般登山者たちにとってみれば、とても気になるアイテムのひとつのようです。もちろん、使わないに越したことはないけれど、使い方を学ぶ姿勢はとても大切。こんな機会があるならば…と、とても注目のコンテンツとなりました。
また、「下り」は登山者にとっては永遠の課題でもあるのでしょう。下りが長ければ長いほど、ヒザが笑う、足裏が痛い、疲れ切ってしまって歩けないなど、人ぞれぞれにたくさんの悩みが……。今回歩いた小楢山は登りよりも下りが長く、下山口までは2時間以上も下りのみで、標高差も900mオーバーです。「これでラクになる下りのテクニック」を学ぶには、最適といえるルートです。
小楢山は甲府盆地を取り巻く山並みの北西縁にある山で、標高は1713m。富士山の好展望台としても知られる山で、山梨百名山にも数えられています。塩山駅からチャーターしたバスで乙女湖まで40分ほど。琴川ダムの堰堤が登山口となっています。ここから焼山峠、錫杖ヶ原を経て登りが、およそ2時間弱。山頂からの下りは小楢峠から七曲り、母恋し道のルートで2時間半ほどとなります。
琴川ダムから焼山峠までは、いきなりの急登。階段が続きます。でも、天野さんの歩みはとてもスローで、誰ひとり息が上がることもなく、気がつけば上の展望台に到着していました。「登りはじめからがんばってしまう人は多いと思います。でも、登りで追い込んでしまって、下りがヘロヘロになってしまう。そんな体験ありません?」と天野さん。それはむしろ逆。長い距離を歩きたいなら、自分の心拍数を意識しつつ、「出だしはゆっくり」が安全に歩くコツ。
錫杖ヶ原の分岐を右に緩やかに登っていけば、小楢山の山頂はすぐそこです。灌木の合間を抜けると目の前が急に明るくなり、パッと展望がひらけます。そこには、これぞ甲州!! という出来過ぎの景観が。草紅葉に覆われた広い山頂の眼下には、甲府盆地が。そして白くたなびく白雲の上には日本一の名峰が凛々しく聳え立っています。まさに富士山の大展望台です。ここでしばしの休憩。各人、昼食を摂ったあと、山頂手前に広がる森の中で、ツェルト講習会が始まりました。
ツェルトの使用に関するポイントは次の4つが挙げられます。
・まずは、ツェルトを使う状況に陥らないこと。
・使わざるを得ない場合は、最初に場所の確認をすること→風を避けられる地形を選ぶ、ある程度の平らなところ、もしもの場合に見つけられやすい場所を探すなど。
・張るよりも被る。体力の温存が大切。
・状況に応じて、張る必要がある場合のみ、ツェルトを張る。
まずは、天野さんがツェルトを使う際の心得について語ってくれます。そして、もしも張る必要がある場合はこんなふうにと、細かなコツを説明しながら実際にツェルトを張ってくれました。参加したみなさんも、自分で持ってきたツェルトを次々と張り出しました。
これだけのツェルトが並ぶのは、なかなか目にすることがありません。実技講習ならではの風景です。天野さん、石島さんの手際を見ながら、いろいろな疑問をぶつけています。ペグがないなら小枝でOK、ピンチのときであれば細引きの結び方にルールなどなく、とにかく結べれば大丈夫……といったガイドたちのコツを見よう見まねで実践してみます。
ツェルト講習会の質問攻めはまだまだ続きそうでしたが、そろそろ下山の時刻が気になってきました。「これでラクになる下りのテクニック」も課題のひとつです。長い下山の開始です。下りのコツは、全身をバネにして歩くこと。また、ゆっくりじっくりと歩くのではなく、下りの勢いをある程度利用して、前へと進む力に変えることです。結果的には、ヒザや腰への負担も少なくなり、しかも早く降りることができるようになります。下りのリズムをつくること、ここが大事なポイントです。天野さんお勧めの歩き方は「髭ダンス歩き」。一歩ごとに屈伸運動を意識しながら歩くことで、下半身への負担を軽減できるようになります。
落ち葉積もる道、ガレ場、草滑り、アスファルト。たとえば、小楢山からの下りにもパッと撮っただけでもこんなにも多様。とくに落ち葉の季節には、足をしっかりと置いたつもりでも、地面に敷かれた葉っぱごと滑ってしまうこともよくある話。これが雨の日ともなるとなおさらやっかいなことに。
小楢山の下山は、七曲りから母恋し道を下りれば、林道と合流します。とはいえ、通行止めとなっており車が入ることはありません。ですので、基本的には歩きやすくはあるのですが、でこぼこのアスファルトの上に落ち葉が積もり、これまた滑りやすく、じつは少々歩きにくかったりもします。地面が硬いのでヒザへの振動も気になるところではありますが、髭ダンス歩きを思い出しながらスタスタと歩き続けます。これは何も林道歩きだけのことではなく、下りの歩き方全般にも共通するものでしたよね。実技講習ならではのコツの伝授です。
林道を歩くこと、小一時間。山ノ神を超えて、ゲートのある下山口までたどり着きました。こうして、天野さんのココヘリ安全登山学校の一日は無事に終了です。塩山駅までのバスの中では、天野さんの総括と、参加者一人ひとりの復習会。やっぱり、ツェルト講習の時間がもう少し欲しかったの声が多かったようです。天野さん曰く、次回は、ツェルトでビバーク体験会を実施したいとか。着の身着のままで、安全にビバークできるコツの伝授?それは、また行きたいかも。参加者のみなさん、大変お疲れ様でした。
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