2022-07-15
安全登山学校

ココヘリ安全登山学校への想い|AUTHENTIC JAPAN株式会社 専務取締役・八木澤美好

鷲尾 太輔
山岳ライター・登山ガイド

登山の総合プロダクション・Allein Adler代表。登山ガイド・登山教室講師・山岳ライターなど山の「何でも屋」です。登山歴は30年以上、ガイド歴は10年以上。得意分野は読図(等高線フェチ)、チカラを入れているのは安全啓蒙(事故防止・ファーストエイド)。山と人をつなぐ架け橋をめざして活動しています。 公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅠ 総合旅行業務取扱管理者

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なぜココヘリ安全登山学校を発足させたのか

AUTHENTIC JAPAN 株式会社専務取締役・八木澤美好

万が一の山岳遭難事故発生時に、スピーディーな捜索・救助活動を可能にしたココヘリ。携行を義務化する山域やアウトドアレース大会も着実に増加している。

事故や災害によって命を落とす人を、一人でも多く救うという事業の目的を、多くの企業・組織と共に、持続的な活動にしていくというCSVを実現する中で、なぜ登山学校を発足させたのか。

今回はココヘリを運営するAUTHENTIC JAPAN 株式会社の専務取締役である八木澤美好に、その真意を語ってもらった。

誰でも登頂できる……!?ツアー登山の功罪

ツアー登山の隆盛で浮き彫りになった問題意識

前職では大手登山用品店に勤務していた八木澤。その時期多くの旅行会社もツアー登山事業を行い、憧れの山へ「ツアー登山で安全に登頂できる」環境が整備された。そこで八木澤が感じたある問題意識が、ココヘリ安全登山学校を発足させるきっかけであったと言う。

自分の足で歩くことには変わりありませんが、ガイド・添乗員のサポートを受けることで、自分だけでは登ることのできなかった山頂に立てる……これがツアー登山が広く普及した理由ですよね。

八木澤:ツアー登山の参加者から●●山に登って来たと言う話を聞いても、どんなルートからどのように登ったかを覚えていないんです。目標の山が旅行会社のプランにあればそれに参加するだけですから当然ですよね。登山計画等を立てる必要もないわけです。

日本の登山文化を継承していく上で、この現状はまずいと思ったんです。こうした登山者(山岳旅行者)ばかりになってしまったら、むしろ日本の登山文化は脆弱なものになってしまう。その先にあるのは、登山業界の衰退です。こうした問題意識を十数年来、抱いて来ました。

かつての登山者の中心は、学生山岳部や社会人山岳会などに所属し夏山合宿や雪山訓練などを通じて先輩から登山知識や技術を学ぶ人たちでした。そこで改めて基本に立ち返り、ピークハント(登頂)目的のツアーは旅行会社にお任せして、敢えて山頂を目指さずに登山の知識と技術をしっかり学ぶことを目的にした登山学校を創ろうとの考えに至ったのです。

ココヘリに携わるようになって、その想いを実現させるに至った経緯を教えてください。

八木澤:ココヘリの事業を継続していく中で、様々な山岳遭難の案件に携わりました。原因は様々ですが、中には「どうして!?」と思う案件もあります。

原因を突き詰めて考えると、多くの場合、基礎と経験不足に由来するのでは?との考えに至りました。自己流の知識や技術の元、ネットやSNSの情報を頼りに山に出かけてしまう…その結果として思わぬ場所で思わぬトラブルに遭遇してしまうんですね。

そこで、まずは安全登山への意識が高いココヘリ会員様向けに、机上だけでなく繰り返し繰り返し現場で技術と知識を身に付け、その経験が自信となる場を提供したいと考え、ココヘリ安全登山学校を設立することにしました。

本気で学びに来て欲しい!そしてココヘリの不要な環境へ!?

ココヘリ安全登山学校の運営に向けた真剣な議論

八木澤のココヘリ安全登山学校への想い、それは数々の遭難事案に向き合って来た当事者ならではの熱量が込められている。そして最終的に目指す環境は意外なものであった。

ココヘリ会員限定のサービスではありますが、ココヘリ安全登山学校の受講料はもちろん別料金なのですよね。

八木澤:はい、ココヘリ安全登山学校は有料です。安全登山への意識が高い人が、自らお金を払って学ぶことで、より講習内容が身に付くはずなのです。高い本気度で受講していただくためには、必要なことだと考えています。

もちろん、受講していただくココヘリ会員様がその費用に納得できる内容をご用意致したく思います。日本でも数少ない国際山岳ガイドの資格を持つ一流の山岳ガイドを講師陣に迎え、彼らが同じベクトルに向かって講義を行う……その結果として、ココヘリ会員の皆様が「より強い登山者」に成長していただければと思っています。

そうした登山者が増えれば、山岳遭難やそれに伴う救助要請も減少しますよね。

八木澤:その通りです。「山で遭難しない」そして「万が一遭難してしまっても生還する」そのためのスキルを実践で一流の山岳ガイドから学んで欲しいと考えています。

それにより救助要請ひいては山岳遭難の件数が減れば、それは救助機関の人的・費用的な負担が減ることにも繋がると思うのです。

そう言った意味でも、ココヘリ安全登山学校での目的はピークハントではなく、知識・技術の習得が優先です。基礎を学び、経験を積んでからピークハントすれば、余裕が生まれてより楽しむこともできるはずなのです。

例えばクラストした雪の斜面でも、正しいアイゼンワークで歩けば、こんなに楽しいことはない。ココヘリ安全登山学校で学んだ知識と技術が、登山の楽しさをより深く、広くしてくれていることを登山者は実感できるはずです。

これは最終的な目標ですが……ココヘリが普及して、ココヘリ安全登山学校の受講生が知識と技術を身に付けて、ベテラン登山者は基本に立ち返る。そうして山での遭難がゼロになり、ココヘリが不要になる、というのが究極のゴールなのです。

オリジナルの教科書づくり、そして……全国に分校を!

一字一句までこだわっている教科書づくり

現在ココヘリ安全登山学校では、オリジナルの教科書を担当ガイド陣と議論しながら作成中。ここまでまとまった形式の資料を作成するのは、登山学校としては異例である。そこには、ココヘリ安全登山学校の全国展開という八木澤の目標があった。

先ほどもココヘリ安全登山学校の講師を勤める3名の国際山岳ガイドと、ココヘリ運営メンバーの皆様の議論の様子を拝見しました。教科書の細かな記載ひとつひとつについて、細かく議論されていましたね。

八木澤:ベースになっているのは、青少年向けにオンラインで実施した近藤謙司ガイドの安全登山講習会です。これをテキスト化してイラストなども挿入した教科書を、現在作成しています。今後はこの教科書を定本とした講習会・実地講習を開催していく予定です。

かなりのコストと労力を費やして、教科書を作成する目的を教えてください。

八木澤:将来的には、ココヘリ安全登山学校を全国展開して47都道府県すべてに分校を開校することを目標としています。そうなると数十人のガイドに携わってもらう必要があります。

普段それぞれの地域で活動しているガイドですから、教え方のニュアンスに少しずつ違いがある場合も考えられます。けれどもココヘリが提供する安全登山学校のカリキュラムで「AガイドとBガイドで違うことを言っている」という状況は避けたい。

どの分校に参加しても、教科書に則った内容でブレない講習を受けることができる環境を創ることは品質の担保としても重要です。その地域独特の気象条件などは加味する必要がありますが、基本軸は揺るぎないものを確立したいと考えています。

そのためにも、全ての安全登山学校で使用される教科書の製作は必要不可欠と考えています。

ココヘリがめざす未来

八木澤がめざす未来とは…

最後に、ココヘリ安全登山学校の展開を含めて八木澤がめざす未来像を語ってもらった。

ココヘリ安全登山学校の受講を検討している方に、メッセージをお願いします。

八木澤:家族・友人・職場……様々な人間関係の中で、登山者もそれぞれの社会的な立場を担っています。社会生活があっての登山であることを忘れてはいけないと思っています。

様々な情報があふれる現代、登山者であれば様々な山岳遭難のニュースを容易に得ることができます。これを「明日は我が身」と自分ごと化すれば、何を学んで何を身につける必要があるかは、自ずとわかると思います。ココヘリ安全登山学校にはそれがあります。

ココヘリ事業についての思いについてもお聞かせください。

八木澤:思いは「一刻も早く早く発見したい」ただそれだけです。そしてそのためには「自分の家族ならどうする?」「何ができる?」「もっとできることはないか?」です。

ココヘリのサービスを開始して3件目、初めて遭難者が生還した時のことは今でも鮮明に覚えています。普通の人生で“人の生命を助ける”経験って、そうあるものではないですよね。ココヘリの事業を立ち上げて、本当に良かったと感じた瞬間です。

最後に、ココヘリ安全登山学校への想いを語っていただけますか。

八木澤:登山者へ向けた様々なココヘリの想いの中のひとつの事業が、会員限定のココヘリ安全登山学校です。ココヘリ会員が「加入して良かったな」と感じることのできる場にしたいですね。

目標としている「強い登山者」がひとりでも増えると嬉しいです。山に対して真摯で謙虚な姿勢を、身に付けて欲しいと思います。半袖Tシャツといった信じられない軽装で雪山に登頂できても、それはたまたまラッキーだっただけではないでしょうか?好天と幸運はいつもとは限りません。

無事故で元気に下山することが必然になる知識・技術を身につけること、それが社会生活の中における“自分”を守ることにつながるはずです。無事の下山を願って皆さんの家族や友人が待っているのは、他ならぬ“自分”であることを忘れないでいて欲しいと思います。

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